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本当にあった心霊話

第六話 「ビルに住み着く正体不明の化け物」

[体験者]  東京都台東区・小林由美子さん・31歳・事務職

半年ほど前に転職をしました。新しい会社は給料もなかなか良く、残業もほぼ無く、福利厚生もしっかりしていて、同僚の皆さんもあまりベタベタしない感じでとても過ごしやすい環境です。ただし「職場のビルにお化けが出る」という一点を除いて……。

うちの会社は5階建てのビルにあるのですが、ビルにはいくつかおかしなところがあります。ひとつ目は1階トイレが“開かずの間”になっていること。ドアは封鎖され、木で目張りがされており、絶対に入れないようになっているのです。ふたつ目は「西側の窓は絶対に開けてはいけない」というルールがあること。最初に先輩の社員さんから説明を受けた時はとりあえず「わかりました」と鵜呑みにしましたが、うちの部署の階だけでなく他の階もそうなっていて、黒い張り紙が貼られていたり、ベニヤ板で塞がれていたりします。みっつ目はその西側の壁だけやたら汚れが酷いこと。大通りに面しているわけでもないのに壁が黒ずんでいて、カビが生えやすく、あまり衛生的ではない感じです。何度か雑巾で拭きましたが、先輩に「拭いても無駄だから放っておいた方がいい」と言われました。

入社してしばらくして、どうしても今日中に片付けておきたい仕事が出てきてしまい、私はちょっと残業をしました。その際、同じ部署の先輩方から「真面目なのはいいけどなるべく早く帰ってね」「あんまり遅くなるようだったら明日にしていいから」と何度も言われました。前の会社が残業の多い職場だったので、良い会社だなあ……と思いましたが、皆さんの態度は、私をいたわっているというより、早く帰したがっているようで、少し不自然な印象を覚えました。でも入って間もない頃だったし、その時は皆さんの勧めに大人しく従おうと思い、残りの仕事は翌日に回して、定時を少し回った頃に帰りました。

でも、それからしばらくして、また今日中に片付けておきたい仕事が出て、残業せざるを得ない状況になってしまいました。以前、早く帰るようにと言ってくれた社員さん達も居らず、まだオフィスには人もまばらに残っていたので「きりのいいところまで片付けよう」と思い、夜8時半くらいまで残業をしていました。そして、きりのいいところまで終わったところで、ふとトイレに行きたくなり、席を立ってトイレのある西側奥に向かいました。するとそこでおかしな音がするのに気付きました。壁の方から「ビチャッ、ビチャッ」と、濡れた布を引きずるような音が響いているのです。最初は何がなんだか分かりませんでした。でも、トイレの奥にある窓を見ると、曇りガラスの外に異様なものが張り付いていたんです。明らかに人間の形をしたものが、ヤモリのように窓ガラスにべったりと張り付いて、顔をこちらに向けていました。曇りガラスだったので影しか見えませんでしたが、私はあまりの恐怖に「キャーッ!」と叫び声を上げ、トイレから逃げ出しました。

そこに、悲鳴を聞いた社員さん達が駆けつけてくれました。でもその様子がまたちょっとおかしくて、腰を抜かして震える私を案じる感じではなく、まるで不注意でミスをした人を咎めるような感じでした。「そういえばあなた、数ヶ月前に入社された方でしたっけ。もしかしてちゃんと説明されなかったんですかね?」と言われ、私は「西側の窓は開けてはいけない、と聞いています」と答えました。すると、その社員さんは私に、ビルの秘密を説明してくれました。

「このビルは駅から近いし立地もいいけど、賃貸料がすごく安いんですよ。理由はあの化け物が出るから。さっきあなたもトイレの窓ごしに見ましたよね。あれですよ。あいつの正体は当然誰も知りません。西側の壁に張り付いているみたいで、夜になると壁を行ったり来たりしているんです。あいつは1階のトイレから出てくるらしくて、あそこが使用禁止になっているのはそのせい。うちの会社結構いい会社でしょ? 給料も悪くないし。でもあんまり人が居付かないんですよ。みんなあいつが怖くて辞めちゃうからなんです。でもルールを守れば実害はないんですよ。1階のトイレに近付かない。西側の窓を開けない。あと夜遅くなる前に帰る。これを守ればいい会社ですよ」

私は今もこの会社で働いています。

霊能者による検証コメント

ビルを霊視してみましたところ、確かにただならぬ霊気が漂っておりました。霊気の正体はご相談者様もご覧になった霊体で間違いありません。「お化け」と表現されていましたが、厳密に申し上げればそれは幽霊ではなく神や妖怪に近い存在です。
そのビルがあった場所には元々古い民家があり、西側の庭に小さな井戸がありました。その後、所有者の方がお亡くなりになり、子孫の方は相続税を払えなかったようで、その土地は売りに出され、それから出来たのが現在のビルとなります。問題はそのビル建設の際に井戸を埋め、その供養を行わなかったこと。多くの井戸には水神が住み着いています。やむにやまれぬ事情により井戸を埋めなければならない場合、祈祷を行い井戸の神を供養する必要があります。それを怠れば当然その水神は災いをもたらす存在となります。
ビルに住み着いている霊体は水神のなれの果てです。元々小さな井戸だったこともあり、決して力の強い存在ではありませんが、それでも人がどうこう出来るものではありません。「決まり事を守れば害はない」ということですが、そのような歪んだ霊気の場所に長く留まっていると心身に危険が及ぶ可能性がありますので、転職されることをお勧めします。

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