第九話 事故物件

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本当にあった心霊話

第九話 事故物件

[体験者] 東京都板橋区・大庭悠太さん・31歳・企画職

事故物件

数年前、しばらく事故物件に住んでいたことがあります。そこで体験したことをお話したいと思います。

当時、転職に成功した私は新しい引っ越し先を探していました。会社から通いやすい距離にある街の不動産屋に通い、いくつも物件を見せてもらいましたが、なかなかいい部屋が見つからずに困っていました。めぼしい物件をあらかた見せてもらい、それでも決まらないので、「他にはないんですか?」と言ったところ、不動産屋の担当の方が出してきたのがその物件だったんです。駅近で築浅のマンションの5階にある2LDK。その割に家賃が相場から数万円ほど安くて、一目見て「優良物件だ」と分かりました。でもやっぱりそれには訳があったんです。

「この部屋、俗に言うところの事故物件なんですよ。少し前に一組の家族連れが住んでいたのですが、そこの奥様が自殺してしまったんです。それから何名もの方が入居なさいましたが、やっぱり“出る”みたいで、皆様すぐ退去されてしまうんですよね」担当の方はそう話して下さいました。事故物件というのは以前から知ってはいました。ですが、私は幽霊の類を全く信じていなかったので、別にそれでもいいと思ったんです。部屋も実際に見せてもらいましたが、何もおかしなところのない綺麗な物件でした。「ここにします」私は軽い気持ちで即決。担当者の方は何度も「本当にいいんですか」と聞いてきましたが、私は「大丈夫。何かあってもそちらを責めたりしませんから」と、半ば強引に入居を決めてしまいました。

それからすぐに引っ越し業者の手配をし、新居に荷物を運び入れ、新しい暮らしが始まりました。その最初の夜からいきなりおかしなことが起きました。前に自殺があったというのは聞いていたんで、やっぱり少し薄気味悪くて、電気をつけて寝ることにしたんです。でも、ふと夜中に目が覚めたら、つけていたはずの電気が消えていたんです。それで、部屋の隅で何か、ごそごそという物音がするんです。「あ~、出たなあ」と思いました。でも私は本当にそういったことに鈍感というか、逆に「気にしたら負け」と思い、無視して再び寝てしまいました。それからも、おかしな物音は毎晩のようにしていました。でも私も強情な性格なので「別に実害がないならいい、気にしなければいいだけ」と、ひたすら無視を決め込みました。

引っ越しから一週間ほどすると荷物もあらかた片付いてきました。そして、ちょうどそのタイミングで、付き合っていた彼女が「家に行きたい」と言ってきたんです。新居が事故物件だということは全く話していませんでした。話したら怒られると思いましたし。でも、家に呼んで、玄関に入れた途端、彼女がその場で立ち尽くして「ここ絶対よくないよ……」って言い出しました。あまり部屋に入りたくない様子でしたが、「人の新居に失礼なやつだなあ、訳わかんないこと言ってないで早く上がれよ」と言うと、しぶしぶ上がってきました。そしてリビングに案内すると、今度は入口のところで突然踵を返し「無理、ごめん、この部屋は駄目、ほんとにごめん」と言い、玄関まで逃げるように後ずさりし、ドアを開けて出て行ってしまいました。追いかけると、彼女はマンションの廊下で泣きながら震えていました。事故物件ということは黙っていたのに……。

彼女のあまりの様相にだんだん申し訳なくなってきて、とりあえず私達は一旦マンションを出て、近所の喫茶店に入りました。そして少し顔色の良くなった彼女に「一体どういうことか、正直に話して欲しい」と言いました。すると彼女はしばらく悩むような素振りをしてから「あのね、馬鹿にしないで聞いて欲しいんだけど……」という前置きを挟んだ上で、「私、霊感があるの。今まで馬鹿にされると思って言わなかったんだけど。お化けとか見えちゃうの」と話し始めました、そして「あの部屋はお化けがいる。たぶん、前に誰かが自殺してる。玄関に入った時からものすごく嫌な感じがした。でも悠太に悪いかなって思ってリビングまで行ってみた。そしたらね、リビングのドアノブのところで女の人がタオルをひっかけて、首を吊ってるのが見えた。主婦っぽい感じだった。それで「もう無理」って思って逃げたの。ほんとにごめんなさい」と話してくれました。

彼女は何も知らないはずなのに、リビングで「主婦らしき幽霊が首を吊っている姿を見た」とハッキリ言ったんです。驚きました。私はその部屋の事情を正直に話すことにしました。なかなかいい物件が見つからず、事故物件だと分かって入居したこと。前に主婦が自殺している部屋だということ。夜中によく物音がするけど無視して住み続けていること。全部話すと彼女は「信じられない。平気なの?」と、まるで狂人を見るような目で私を見てきました。まあ、確かに普通の感覚なら絶対に不気味だというのは分かっていましたが……。

「お願いだから早く引っ越して欲しい。あんな部屋に住んでたら絶対おかしくなる」そう何度も言われ、私はしぶしぶ引っ越すことにしました。何が悔しいって、幽霊に負けた気がしたことですね。それから彼女に促されるままにすぐ部屋を出て、彼女の部屋に転がり込み、今はそのまま彼女と同棲しています。

霊能者による検証コメント

日本は「自殺大国」と言われるほど自殺の多い国。自室で死を選ぶ方も少なくはなく、そういった背景のある、いわゆる事故物件も各地に点在しています。

まず本件の投稿者様を霊視いたしましたが、ほとんど霊感がないタイプの方であることが分かりました。この世の中に「全く霊感のない人」はいません。誰しも多かれ少なかれ霊感を持ち合せています。投稿者様はそんな中でも先天的な霊感が極めて乏しい方ですので、例えば心霊スポットに足を運んだり、事故物件に住まわれたりしても、すぐさま霊障を受けることはまずないでしょう。しかし、先ほども申し上げました通り、全く霊感のない人というのはこの世に存在しません。あまりに強烈な負のオーラが漂う場所に長く居続ければ、どのような方であっても多かれ少なかれ悪影響を受けます。その物件に関しても遠隔霊視をいたしましたが、かつて自殺された方の霊が強烈な不浄霊となって留まり続けており、凄まじい負のオーラが漂う場所となっていました。

投稿者様の恋人さんは霊感が強い方ということで、すぐにその気配を察されたようです。恋人さんのおっしゃる言葉に従ったのは正しい選択であったと言えるでしょう。もしそのまま部屋に住み続けていたら、いずれ霊的に汚染され、運気が著しく低下し、実生活にも顕著な悪影響が出ていたに違いありません。