本当にあった心霊話
第十一話 道祖神の祠
[体験者] 千葉県船橋市・田中友香さん・35歳・主婦
以前住んでいた家の周辺で、不可解な現象が多発したことがあります。その結果、引っ越しを余儀なくされました。心霊話を募集しているということで、その件について投稿します。
20代前半の頃、私は都内の下町にあるアパートに住んでいました。具体的な地名は伏せますが、駅前には昔ながらの商店街があって、庶民的な佇まいが魅力的な場所です。一応、女性なので、そんなに古いアパートには住んでいませんでしたが、周囲には昭和っぽい昔ながらのアパートや長屋のような家もたくさんあり、まさに下町という感じでした。ですが、当時の段階で再開発が進みつつあり、周辺にもどんどん新しいマンションが建設されていきました。そんな様子を見て、なんだか寂しく思ったものです。
当時住んでいたアパートのすぐ近くにも古めかしい木造の一軒家がありましたが、そこも住人の方が土地を手放してしまい、新しく9階建てのマンションが建つことになりました。そのお宅のそばには小さな祠がありました。見るからに古いもので、道祖神という古い神様を祀るものだったようです。近所のお年寄りの方が時々、祠に向かって両手を合わせているのを見たことがあります。昔から住んでいる方々で管理しているのか、古いながらしっかり手入れがされていて、汚れもなく、いつもお花や水のようなものが供えられていました。しかし、それも再開発の一環として取り壊されてしまいました。
それから、家の近くでたびたび悪いことが起きるようになりました。近所の雰囲気が変わったんです。それまでは古めかしくも温かみのある雰囲気だったのですが、一変してどこか不気味になりました。夜道を歩いていても「怖い」と思うことなどなかったのですが、変質者や通り魔が出没するようになりました。また、自殺が相次ぐようになりました。雑居ビルの屋上から人が飛び降りる事故が立て続けに二件。一人暮らしの方が部屋で首を吊って亡くなった事故が一件。これらが1ヶ月以内に起きました。
家の近所に行きつけの喫茶店があったのですが、そこのマスターも「最近おかしい、以前はこんな変な事件なんて滅多に起きなかった」とおっしゃっていました。そしてやはり「祠を壊したのが良くなかったんだと思う」とぼやいていました。
そんな不穏な雰囲気になってしばらく経った頃。私の住んでいるアパートの部屋でも妙な現象が起きるようになりました。夜中に誰かが廊下を行ったりきたりする足音が聞こえるのです。「コツ、コツ、コツ」というただの足音で、最初は“誰かが帰ってきたのかな”と思いました。でも、不気味なことにその足音は、5分経っても、10分経っても鳴り続けています。廊下を行ったりきたりしているのです。廊下に不審者なんて今まで出たことがありません。私は怖くなって、イヤホンで音楽を聴きながら無理やり就寝しました。朝起きたら静かになっていました。
でも、その足音はそれから毎晩鳴り響くようになりました。深夜1時を回った頃になると、必ず廊下から「コツ、コツ、コツ」という足音が聞こえてくるのです。だんだんノイローゼ気味になった私は、意を決し、覗き穴から廊下を確認してみることにしました。「コツ、コツ、コツ」という足音が鳴り響いている最中に、玄関のドアについている穴に顔を近づけ、廊下の様子を伺ってみたんです。
そこで驚くものを見ました。人の形をした黒い影のようなものが歩いていたんです。変質者のほうがまだマシだったかもしれません。明らかにこの世のものではありませんでした。あまりの恐怖に、思わず「ヒッ」と小さな声を出してしまいました。するとその人の形をした黒い影はピタリと動きを止め、私の部屋に近付いてきたんです。慌てて覗き穴から顔を遠ざけました。これ以上見ては駄目だと思ったからです。
その直後、目の前のドアを「コンコン、コンコン」とノックする音が響き始めました。コンコン、コンコン、コンコン、コンコン……。音はまるで機械のように無機質に鳴り続けています。私の恐怖はそこで頂点に達し、気を失ってしまいました。目覚めたら朝でした。もうノックの音は響いていませんでした。「あれは悪い夢だった」そう思いたいところでしたが、私が目を覚ましたのはまぎれもなく玄関でした。夢ではなかったのです。
もう、こんな部屋には怖くて住めません。一人暮らしの友人に連絡し、しばらく居候させてくれるように頼み込み、必要最小限の物だけ持ってすぐに家を出ました。そして居候先から新しい引っ越し先を探し、数日で引っ越しの段取りをつけ、その部屋を引き払いました。最後、物件を管理されていた不動産屋さんに連絡した際「最近引っ越される方がとても多いんですよね」とぼやいていたのが印象的でした。
あれから10年以上経ち、今は結婚してまったく別の場所に住んでいます。先日、久しぶりにその辺りを訪れる機会がありました。私が以前住んでいたアパートは影もかたちもなくなっており、大きなファミリー向けマンションが建っていました。あの一帯では今も不気味な現象が起きているのか、それともそうでないのか、ちょっと気がかりです。
霊能者による検証コメント
道祖神は神様ですが、私達が想像するような立派な神様のイメージとは異なります。神道の神様ですから、どちらかというと妖怪に近い存在です。良い者もいれば悪い者もいます。そして、道祖神として祀られる存在は決して良い者だけではありません。道祖神そのものから御利益を得たい場合は、良い者を祀る必要がありますが、祀ることで災厄がやってくるのを防ぐ目的の場合、力の強い悪しき存在をあえて祀ることでその場所に留め、村や町に災厄を寄せ付けない結界として用いることもあるのです。昔の辻などにはしばしばこういった道祖神の祠が設置されていました。
さて、道祖神の祠を撤去・移設した後に悪いことが起こるようになった、という話はたびたび耳にします。皆様、まず「神様の祟りだ」といった風に思われるようですが、本当の原因はそうではない場合がほとんどです。確かに道祖神には本来、悪い性質を持つ者もいます。しかしそれは自然の持つ穏やかな部分、荒々しい部分といった性質の話であり、人そのものに悪意を向けるわけではありません。再開発で祠などを撤去・移設する場合、真っ当な業者であれば必ず祈祷や供養を行います。道祖神は元々自然に存在する霊ですから、しっかりとした手順を踏み、その場所から解放した後に祠を撤去すれば、神様は本来の自然に還るだけです。怒ることはまずありません。
悪いことが起こるようになるケースの多くは「その道祖神が今まで災厄の侵入を食い止めていた」というものです。それを撤去・移設した結果、霊道の流れが変わり、今まで防いでいた悪いものが一気に侵入するようになり、事故や事件、不気味な現象が頻発するようになります。今回のご投稿者様からいただいたお話はまさにその典型的な例でしょう。かつてお住まいになっていた地域の現状を霊視してみましたが、その一帯は現在も悪いものが多く、かなり不安定な状態のようです。