第二十一話 母に似た何か

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本当にあった心霊話

第二十一話 母に似た何か

[体験者] 愛知県名古屋市・宮田楓さん・41歳・主婦

陸奥の電話占いにお世話になっているリピーターの者です。先日、サイトを巡っていたらこちらのコーナーを見つけ、そういえば幼い頃に一度だけ心霊体験のようなものをしたことがある、と思い出し、その体験を投稿してみることにしました。取り上げていただけたら幸いです。

母に似た何か

幼い頃、家族旅行で訪れた旅館で不思議な体験をしたことがあります。私の家は、父と母、兄と私の四人家族です。その旅館には春休みを利用して行きました。田舎のほうはまだ寒くて、雪は積もっていなかったものの、夜は底冷えするような雰囲気だったのを覚えています。旅館に到着して、まずは家族で温泉に入って、それから四人で夕飯を食べました。食事を終えた後、母が「もう一回温泉に入ってくる」と言って、部屋を出ていきました。それからしばらくして、急に私も同じようにしたくなり、「お母さんと一緒にお風呂入ってくる」と言って、部屋を飛び出したのです。

小さい頃の私は怖い物知らずで、すぐひとりでどこかにふらふらと行ってしまうような困った子でした。よく迷子になって後で親に叱られていました。でも、その時は迷子にはならなかったんです。一度行って場所を覚えていたので、ちゃんとエレベーターで一階に降りて、ロビーを抜けて、別棟にある浴場まで行けました。中には母がいるはずなので、私は急いで服を脱ぎ、浴場内に入り、母の姿を探しました。母はすぐ見つかりました。湯船に浸かりながら外の景色を眺めていました。「お母さん」私が話しかけると、母は振り返って「あら、来たの」と一言。夜も遅い時間で、ほかの入浴客はひとりもいませんでした。私と母は無言でしばらく湯船に浸かり、それから浴場を出て、着替えて、部屋に戻ろうとしました。

母は私の少し前を歩いて、私はその後ろをついていきました。ロビーを抜けて歩いていって、母はなぜかエレベーターに乗ろうとせず、遠回りして階段を上っていきました。「お、母さん、エレベーター使わないの?」と尋ねましたが、母は無言でした。普段の母はとても陽気な人で、私が話しかけて無視するなんてことはまずありません。なんだかいつもの母と雰囲気が違う。私はそう感じ始めました。急に怖くなってきましたが、私は母の後ろをついて階段を上っていくことしかできませんでした。

宿泊階につくと、母は階段から廊下に向かい、歩き始めました。そこで私はあることに気付きました。温泉旅館に入ってからスリッパを履いて歩いているのですが、スリッパを履いて歩くと、ペタ、ペタ、という音がします。でも、目の前を歩いている母から、その音がしないのです。母はちゃんとスリッパを履いて歩いているのですが、まったく音がしませんでした。この人は母じゃない。何か違うものだ。私はそう確信して、その場に立ち止まりました。恐怖で足がすくんで動けませんでした。母の姿をした何かは、立ち止まった私を振り返りもせず、そのまま無音で歩いていき、廊下の曲がり角を音もなく曲がっていきました。

私はついに恐怖に耐えきれず泣き出してしまいました。しばらくすると、従業員の方が駆けつけてきてくれました。私はロビーに連れていかれ、しばらくすると父と母が物凄い勢いで駆けつけてきました。その母はまぎれもなく私の知っている母でした。母は温泉にしばらくひとりで浸かり、そのままひとりで部屋に戻ったそうです。そこで父から「私が追い掛けて温泉に入りに行った」と聞かされ、仰天して、それからふたりで必死に私を探していたそうです。さらに驚いたことに、私は宿泊している階ではなく、そのふたつ上の階で泣いていたそうです。

私が浴場で見た“母”は一体なんだったのか。そして、あの“母”にあのままついていったら私はどこに行っていたのか。もう何十年も前の話ですが、今でも思い出すだけで背筋がゾッとします。

霊能者による検証コメント

旅館やホテルの屋内で、人ではない何かと接触した、という話は決して珍しくありません。お母様だと思ってついていったその何かは、間違いなく悪意を持った霊的な存在でしょう。子供だったご投稿者様を気に入り、連れて行こうとした、と考えて問題ありません。もし仮にそのままついていってしまっていた場合、どうなっていたかは私にもわかりませんが、ただ事では済まなかったはずです。「神隠し」の類に遭っていた可能性も考えられます。何事もなかったようで何よりです。