私の実家の庭には、お稲荷様を祀った小さな祠があります。先祖代々守ってきたもので、現在は父が祠の掃除やお供え物などの管理を行っています。私や妹は物心ついた時から「キツネと犬は仲が悪いから、我が家は絶対に犬を飼ってはいけない」と教えられてきました。犬が大好きだった私は、何度も「犬が飼いたい」とお願いしましたが、父は頑として首を縦に振りませんでした。

私が小学校4年生くらいの時でしょうか。近所に住むユリコちゃんから「家族で旅行に行くので、1日だけ飼い犬を預かってくれないか」と言われたことがあります。私はユリコちゃんの家に遊びに行くたびに、ユリコちゃんの飼い犬・ハチと遊んでいました。父の言いつけが気がかりでしたが、私はハチのことが大好きだったので、「1日だけなら」と喜んで引き受けました。父は「庭には絶対に犬を入れない」という条件のもと、しぶしぶ了承してくれました。

そして、ハチが我が家に来た日の午後、不思議な出来事が起こりました。家の前の道路でハチとボール遊びをしていたとき、妹が投げたボールがすっぽ抜け、庭の方へ消えていってしまったのです。ハチはボールを追いかけて、全速力で庭の方へ。そして「ウ～～～、ワンワン‼」と吠えるのです。普段はおとなしいハチのただならぬ声。私と妹は父の言いつけを思い出し、青ざめながらハチを追いかけました。ハチは、庭の一歩手前で何かに向かって、うなり声をあげていました。しかし、庭を見ても、何もありません。ただ、風も吹いていないのに、庭の草木がざわざわと揺れていました。そして、私と妹が庭中のどこを探しても、ボールは見当たりませんでした。

その日の夜、父に庭での出来事を話すと、「お前たちが騒がしくするから、お狐様が怒ったんだ」としかられました。私と妹は父の話を聞いてすっかりおびえてしまいましたが、「ちゃんとゴメンナサイをすれば大丈夫だよ」という父の言葉に一安心。翌朝、私と妹は、父と一緒に庭のお稲荷さんにお供え物をし、「犬を連れてきてしまってごめんなさい」と伝えました。それきり、私も妹も二度と犬を連れてくることはしませんでした。しかし、あの時ハチは何に向かって吠えていたのか…、今でもわかりません。

霊能者による検証コメント

お稲荷様は、商売繁盛や五穀豊穣などのご利益がある神様で、全国的に広く信仰されています。今回の一件は、ご実家で祀られているお稲荷様のご眷属（神様の使い）が、ハチやご相談者様たちに対して警告したものと考えられます。

もともと神社のような神聖な場所では、犬や猫などの四つ足の獣は「不浄」「穢れ」としてみなされ、そうした穢れを境内に持ち込むと、ご眷属が怒って、飼い主やペットに障りをもたらすとされてきました。中でもお稲荷様の神社では、仲が悪い犬を連れての参拝は不適切と言われています。これは、お狐様がどんなに巧妙に姿かたちを変えても、犬が嗅覚で見破ってしまうからとか、犬が猟犬としてキツネを退治する立場であるからなど諸説あります。もしかしたら、ハチはご眷属の姿を見たか、その気配を感じ取って、吠えてしまったのかもしれません。

とはいえ、ご実家の祠のご眷属は比較的穏やかな性質だったようで、警告のみで済んでよかったです。ご相談者様のご先祖様が代々守ってきた大切な祠、どうかこれからも末永く大事になさってください。