友人と2人で旅行に行ったときのことです。歴史ある古い旅館に泊まり、食事も美味しく大満足。友人は無類の温泉好きで、入浴を何より楽しみにしていました。そのため、のんびり部屋でメイクを落としていた私を置いて、先に温泉へ。彼女はいつも長風呂なので、ちょうどいいかな、なんて思っていました。

だいぶ遅れて、私も温泉へ。離れにある温泉までの道のりは少々暗かったですが、ところどころ提灯が下がっており、途中から石畳が敷いてあったため、迷わずに進みました。紅葉シーズンでしたが落ち葉もなく、きれいに整備されていて好感を持ったこともハッキリと覚えています。

道の先には少し古い建物があり、引き戸を開けると温泉の香りがしました。ところが友人の下駄は見当たらず、脱衣場にも荷物がありません。不思議に思いながらも、「ここまで来たわけだし」と思い、先にお湯に浸かることにしたのでした。

すごく気持ちよかったのですが、待てど暮らせど友人は来ません。心配になった私は、早めに上がったのでした。部屋に戻ると、そこには濡れた髪を乾かす友人の姿が……。そして、お互いに「なんで来なかったの？」と口を開いたのです。

気味の悪い状況に、鼓動が早まるのを感じました。友人は、ついさっきまで温泉に浸かって私を待っていたと言い張るのです。もしかして、温泉が2か所あるの……？そう考えた私と友人はフロントに行き、話を聞くことに。

フロントの男性は困惑した表情で、「浴場は1つでございます」と言いながら、館内の説明をしてくれました。それは、私が行った温泉ではありませんでした……。必死になって自分が利用した温泉について話していると、奥から年配の従業員が出てきて「まさかとは思うのですが……」と現在は運用していない離れの温泉の存在を教えてくれたのです。

私達は確認のため、旅館の方2名と共にそこへ向かうことに。見覚えのある石畳にホッとしたものの、古い提灯は破れており、道は荒れ果てていました。さらに、極め付けは施設の扉が頑丈に施錠されていたこと……。先ほどは、鍵なんてかかっていなかったはずなのに。

緊張のピークのなか、浴場の扉を開けると……。そこには、大量の湯気が上り、湯船から温泉が溢れ続けていたのでした……。

「栓は締めていたはずなのに！」あせって作業する従業員の方達を眺めながら、私は震えが止まりませんでした。このボロボロの施設で、1人で温泉に浸かっていたの……？

これが、私の恐怖体験です。

霊能者による検証コメント

大変興味深く読ませて頂きました。恐ろしい体験をして、さぞかし不安になったことと思います。しかし、ご安心ください。霊視の結果、これはあなたに原因があって起きたことではありませんでした。

信じられないかもしれませんが、この世界と別世界が交じり合うことは、稀に起こるのです。例えば、場所と場所を繋ぐ境目。橋や門や、道が交差する四つ角は、いくつもの世界が交錯しています。古く閉ざされた蔵や建物も、異世界に行き来しやすいのです。

あなたは様々な偶然が重なり、この世と異世界の狭間に入り込んだ……ただそれだけのこと。その証拠に、他に不思議な体験をしたことは一度もないはずです。

神隠しってご存知でしょうか。あなたがきちんと戻ってこられたことは、喜ばしいことですよ。